西条奈加 上野池之端 鱗や繁盛記 | 時代小説買取
西条奈加 上野池乃端鱗や繁盛記
寒村に住む「お末」は、奉公先を逃げ出した従姉妹の代わりに、ある料理屋に奉公に出されます。
その奉公先が「鱗や」です。
昔は、美味しくて見映えも素晴らしく、店内も掃除が行き届き、とても格のある料理屋でした。
ですが、先代が亡くなり、仕事より妾巡りに忙しい店主と、着物を誂えること、芝居見物に精を出す女将のせいで、店は荒れ、料理も簡単に作れるものばかりを出す、いわば「出会い茶屋」に落ちぶれてしまいました。
当然、店で働く者はやる気もありません。お末には、それが悔しくてならないのです。
そんな悔しさを持った人がもう一人。店の若旦那も、鱗やを元のような格式のある店に戻したいと思っていました。
そして、お末とあれこれと策を練り、だんだんと鱗やの評判は上がっていきます。
ですが、若旦那が鱗やを昔のようにしたいと思っていたのは、実は復讐のためだったのです。
鱗やは、元々茨城県の水戸店が本店で、江戸店は支店でした。
若旦那は、この本店の末息子だったのです。
江戸店は、年の離れた姉が婿を捕って繁盛していました。
しかし、当時番頭だった今の店主がその女将に横恋慕し、店と女将を同時に手に入れるために、水戸店には火付け、江戸店は店主殺しをしていたのです。
その時の末息子が、若旦那だったのです。
旦那と女将殺しの罪で店主は斬首。
その店主がちょっかいを出していた、お末の従姉妹を殺そうとした女将と娘は島流しに。
また、町人の仇討ちは御法度のため、若旦那も島流しになりました。
それから八年後、恩赦で島から戻った若旦那は、取り潰しになった鱗やの跡地を見に行き、がく然とします。
そこには、立派な料理屋になった鱗やがあったのです!
なぜ、鱗やがあるのか。
これは涙なくては読めません。
最初はサスペンス仕立てでハラハラさせ、最後に泣かせる。
粋で心が暖かくなるは作品ですよ。